まりもっこり日和

本・漫画・映画のレビューと日々のつれづれ。

「正しい家族」なんてない。

妻が死んだ。これっぽっちも、泣けなかった。

永い言い訳 (文春文庫)

西川美和監督の映画『永い言い訳』公式サイトの原作小説。

仮面夫婦の状態にあった妻を亡くした、人気小説家・衣笠幸夫が、妻の親友の遺族、トラック運転手の 夫・陽一とその子どもたちと出会い、ふとしたきっかけから、子どもたちの世話を買って出る。子どもたちとの関わりを通して、誰かの為に生きる喜びを知り…というストーリー。

映画では、簡単に切り捨てられない他者の必要性、他者との関わりを通しての人間の成熟がフォーカスされている。

 

原作小説を通して見えたもの

一方、小説は、登場人物の語りを通して、物語が進む構成となっている。

そこから見えてきたものは、「家族はかくあるべき」という、正しさを押し付けない作者の姿勢。

衣笠幸夫の人間的な変化や、衣笠幸夫と子どもたちとの間に芽生えた”家族”関係について、物語の中で、2つの視点から捉えている。

まずは、衣笠幸夫の視点。

誰にどんな茶々を入れられようと、自分には今この強固なつながりがある。陽一にとってそうである以上に、このちいさな友人たちにとっても自分の存在が命綱であるということが、何よりも幸夫を勇気づけた。(中略)もうこのまま世間から忘れられてもかまわないとさえ思えた。

ーーP.261 L.8-12 より引用

そんな衣笠幸夫を捉える、担当編集者の視点。

充足感と変な高揚感にあふれた津村(※衣笠のペンネーム)の表情が寒々しくて見ていられない。あんたにとってその家族って、一体何なんだ。同じ境遇で家族を亡くした者同士が、お互いの心に空いた穴を埋め合うように共存しながら再生し始めた、っておはなしか。ほんとかよ。僕にはどうも一方的なんじゃないかという気がするね。

ーーP.193 L.17-P.194 L.3より引用

肯定的な視点と、シニカルで懐疑的な視点。張り詰めた両者の緊張関係。

そして、作者自身が、どちらが正しい・あるべき姿、とは言わず、「こういう家族や関係性があります」と、淡々と、突き放して描いているのが、とても興味深い。

 

「正しい家族」なんてない。

映画では、俳優の演技や表情で表現されていた部分。

言語で描く小説ならではの、はっと気づかされるものがある作品でした。

映画『永い言い訳』公式サイトのDVDも発売中。夏休み、小説とあわせて、観てみてはいかがでしょうか。

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