まりもっこり日和

本・漫画・映画のレビューと日々のつれづれ。

二人組になれない私たち

作家・小野美由紀さんのワークショップ『身体を使って書くクリエイティブライティング講座』に参加。

そこで書いたフィクションを、以下に掲載します。

 

  「それでは、二人組を作ってください」

  体育や図工の授業、仕事のワークショップで、よく耳にする一言。私はこの言葉が嫌いだ。いつも、うまく二人組になることができずに、ぽつんと一人、立ち尽くす。そして、同じようにあぶれた一人と、しぶしぶペアを組むことになる。こいつと組むのか、という、相手からの無言の侮蔑を受ける。相手が私ですみませんね、と、私は心の中で懺悔する。

  「それでは、二人組を作ってください」

  月一回の営業研修、今回もまた、集団の中で、ひとり取り残された私は、一番後ろの席に座り、ひっそりと息を潜めていた。今回のペアワークは、三十分。営業マンと顧客のロールプレイング。同僚同士が繰り広げる茶番を、ぼーっと眺めていた。白熱する研修、大勢の中で一人位抜けても、おそらく誰も気づかない。こんなところにいるのもばからしいな、と思い、私は静かに部屋を抜け出した。

  研修フロアは五階、本社フロアは三階。ここなら誰もいないだろう、と思い、八階の喫煙所へと足を運んだ。ポケットから煙草とライターを取り出し、カチッと火をつける。ふぅーっと、深く、煙を吸い込む。研修中なのに、私は一体、何をしているんだろう。罪悪感が胸をかすめながらも、次の一本を手に取った。

   「あれっ、火がつかない……」 

  カチッ、カチッ。乾いた音が、静かな室内に響き渡った。しかたない、戻るしかないか。諦めて入り口のドアへと振り向いた矢先、見たことのある顔が目に飛び込んできた。

  「あ、お疲れさまです……」

  営業事務部の窓際社員・鈴木さんだった。彼は、入社二五年目の、四九歳平社員。前社長のコネで入社し、一時は課長にまで昇進したものの、現社長と諍いを起こして降格し、減給処分を受けた経緯を持つ。太っていて、おどおどした口調で、おまけに体臭もきつい。誰も、彼に近づこうとはしない。当社の『窓際社員』といえば、誰もが真っ先に彼の名前を出す。そんな存在だ。

  「火、分けてもらえませんか?」

   無意識のうちに、私は鈴木さんに声をかけていた。一瞬、はっと大きく目を開いて、鈴木さんはそっと私にライターを手渡した。

  カチッ、カチッ。シュッ。ふぅー。

  二本目の煙草の煙を、大きく吸い込んだ。

  カチッ、カチッ。シュパッ。

  隣で鈴木さんも、煙草を手に取り、火をつけた。

  沈黙。

  言葉を交わすこともなく、私たちはただ、煙の空間を共有していた。

  「火、ありがとうございました。お先に失礼します」

  二本目の煙草をもみ消して、私は入り口へと一歩踏み出した。

  「斎藤さん。二人組になんて、ならなくても良いんですよ」

  ぼそっとつぶやくように、鈴木さんは言った。私は、はっとして、思わず振り向いた。

  彼は一体、何を知っているのか。往年の窓際社員、蚊帳の外にいながらも、外側にいるからこそ、内部の人間模様を知っているのかもしれない。渦中にいながら、疎外されている私を、ただ外側から眺めているのかもしれない。実際のところは、わからない。 

  ただ、鈴木さんのその一言に、鼻の奥がつんとして、泣き出したい気持ちになった。どう受け取ったらいいんだろう。何を伝えたらいいんだろう。言葉を探したけど、わからないまま。

  「……ありがとうございます」

  苦虫を噛み潰したような、どこかはにかんだような、何とも言えない笑みを浮かべて、私は喫煙所を後にした。

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※ワークショップ当日の様子はこちら↓
 

2018年1月、ワークショップの開催が決まったそうです。興味のある方はぜひ、ご参加ください。