まりもっこり日和

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見るのに覚悟がいる映画。

映画「野火 Fires on the Plain」オフィシャルサイト 塚本晋也監督作品

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大岡昇平原作小説の映画化、2015年、戦後70周年の節目に公開された、塚本晋也監督の作品。

第二次世界大戦のフィリピン戦線での、日本軍の苦しい彷徨いを描いた映画です。

 

ヒロイズムも、勝ち負けもない

本作には、国を率いる英雄や英雄を崇めるヒロイズムもなければ、戦での勝ち負けもない。

描かれているのは、国の決めた戦争に振り回され、疲弊し飢えに苦しむ人々。

110分間、特に壮大な戦のシーンを挟むわけでもなく、ただ困窮する人々の姿が、生々しく描かれている。

極限の飢えの中で、人間は獣と化していく

全ては、自分が生き延びるため。本能のままに、食糧を探し求め、時に他人と奪い合い、諍いを起こし、挙げ句の果てには、人が人を喰う事態にまで発展する。

そこには、お世話になった人への恩義や、思いやりは、もはや存在しない。

戦後72年経った今では、想像もつかない、できれば目を向けたくない、壮絶たる現実。

「現実に目を向けなさい」

そう言わんばかりに、今を生きる私たちに、映像と音響を通して、訴えかけてきます。

 

当事者なのに、「人間」たることを捨てきれない主人公

興味深いのは、主人公の日本兵が、観客に近い、一歩引いた目線で俯瞰している点。

他人への思いやり、分かち合いetc.「人間」たることを捨てきれない主人公は、食糧を仲間に分け合い、お世話になった人への恩義を持っている。

しかし、そうした「人間らしさ」を、極限の飢えに苦しむ中で、仲間たちは次第に失っていく。

仲間が獣と化していく、燦々たる現状を、その場にいながら、自分には何もできない。ただただ、息をのむ。

言葉を失う主人公。

物語が進むにつれて、スクリーン全体を眺める、いち観客としての私の視点が、徐々に主人公の視点に重なっていきました。

 

見るには覚悟がいる。でも、

観終えた後の、ずしっと重くのしかかる、言葉にできない感情。

「派手なアクションシーンを楽しみたい!」という人には、オススメできない作品。

正直、見るには覚悟が必要。

でも、今、観ておかなきゃいけない。

戦後72周年、戦争のリアルを伝える世代が減り、戦争の爪痕が徐々に消え失せていく今だからこそ、観る価値のある映画だと思います。